和装の男の人って、雨の日はどうしてるんだろう?
着物を着るときにいつも気を揉むのが天気のことだ。幸いなことに今までのところ、雨が降ろうが槍が降ろうが着物を着なければいけない機会というものに巡り会ったことはないが、それは単にお稽古事を始めてから日が浅いからであり、それほど熱心にイベントなどに参加している訳ではないからでもある。自慢できた話ではない。そしてわたしは、和装の雨具を所持していない。
女性であれば、雨用の履物と雨コートは呉服店でも通販でも簡単に手に入る。(なぜか知らないが、和装業界では雨合羽とかレインコートではなく、「雨コート」と言うらしい。)楽天市場で「着物 雨コート」と検索すれば、デザインも生地も様々なものが、選ぶのに困るほど出てくるのだが、そこに「メンズ」とか「男」と入れるとヒット数は1/200程度になってしまう。
男性用の雨コートとして一般的に売られているのが、これとかこれのような、普通のコートを防水生地にしたようなタイプのものである。しかしこれらは丈が膝までしかなくて、泥はねから裾を守ることはできないし、風がある日は傘をさしても裾の方が濡れてしまう危険がある。洋服であればズボンが濡れたところで洗えば済むが、絹の着物を濡らしてはいけないし、だいいち濡れた着物でお茶室に上がるなんてことをしたら失礼もいいところだ。尻っ端折りして歩けばいいのかもしれないが、袴を着ける場合はそれもできず、裾が広がってしまうので濡れる危険はさらに大きくなる。
着物を着る男の人って、雨の日はどうしているんだろうか。
まずは日頃お世話になっている古着(リサイクル着物)屋さんのご主人(男性)に訊いてみたところ、単純明快な答えが。
「雨の日は着物を着ません」
趣味で(普段着として)着物を着る方は、それで十分だろう。だけどわたしたちには、着物を着なければいけない時だってあるのだ。ということで、お次は近所の呉服屋さんへ。大手の呉服チェーンや百貨店の呉服コーナーで、「男性用の雨コートありますか?」と訊いてみたが、軒並み「取り扱っていません」とのこと。呉服チェーンのある店ではこの機会に洗える(化繊の)着物なら濡れても安心ですよ? と営業をかけてきたので、思わず「いやいや、そういう話じゃなくて、濡れた着物で茶室に上がれないでしょうが!」と怒ってしまった。商魂逞しくて恐れ入るが、語気を荒げてごめんなさいね。
続いて地元の小さな呉服屋さんのご主人に訊いてみると、「誂えるしかないんだよねぇ」との返事が。おじさんはわたしがお金がないことをよくご存知で、いままでもお金にならない面倒な仕事を何回か引き受けさせてしまったので、もう懲りたのだろう。見積もりまでは出してくれなかった。
そういえば男のきもの大全の早坂さんも、こんなことを書いている
このご時世にわざわざ着物を着る人なんて、経済的にも余裕のある人ばかりだし、みなさんお誂えになるのでしょう。二回の海外旅行を諦め、血を吐く思いでお召の着物と羽織袴を誂えたわたしのような小市民には、残念ながら手が届かない。なお、わたしが着物を作ってもらった銀座の呉服店(ここが一番安くて、質も申し分なく、相談にも丁寧に乗ってくれたし、細身のわたしにもぴったりフィットするものを作ってくれた)にも訊いてみたが、既製品も扱っているが丈が短いので、長いものがほしければ誂えるしかないですねとのこと。見積もってもらったが4~5万円程度になるという。なんとかして、安く手に入らないものか。次に、たまにお世話になっている洋裁屋さんにイメージをお伝えして見積もって貰うと、生地代別で、3万円くらい、との返答が。あるいは既製品の雨コートに、生地を足して長くすることもできますよ、もちろん違う生地を縫い付けるので見た目は少し変わってしまいますが、とのこと。これくらいだったら、少し余裕ができたらお願いできるかなぁ。
おそらく、一番手っ取り早いのは女性用の雨コートをそのまま使う、というやり方だ。二部式ではない紐で留めるタイプで、黒か紺であればデザインはそれほど気にならない。サイズは、大きいものであれば身丈142cm、裄丈70cmくらいあるので小柄な男性であれば裾まですっぽりとカバーできるのではないかと思う(最近の着物は裄が長い傾向にあるので、足りないかもしれないが)。わたしの着物は身丈が151cmなので、これではちょっと足りない。
あるいは、雨スカートというものもあるらしい。袴の上から履くのであればこれでも違和感はないかもしれない。傘で上半身を守り、雨スカートで下半身を守るというのは、ひとつの解決策としてありうる。そうだ、傘だって蝙蝠傘じゃ風情がない。番傘とか蛇の目傘が必要になるんだなぁ。これもまた高い。
そんなことを考えているとふと頭に浮かんだのが、「お坊さんってどうしてるんだろう?」という疑問だ。法衣は普通の着物とは少し違うが、袖も裾も着物と同じような形なので参考になるかもしれない。菩提寺のご住職にこんなくだらないことを訊くのも気が引けるので、知り合いのお坊さんにLINEで訊いてみると、
「法衣屋さんで普通に売ってるよ! 一般の人でも売ってくれると思う」
との答えが。おおっ、光が見えた。
さすがに有髪のわたしが僧侶のためのお店に行くのは気が引けるので(浄土真宗の仏具屋なら大丈夫か?)、法衣の通販サイトをいろいろと見てみたが、それにしても和装小物が安い。足袋や下着も種類がたくさんあって、機能的な下着を取り揃えているお店が多い。半襦袢も呉服屋で買うより格段に安い。夏用の化繊の入っていない半襦袢なんて、かなり苦労して見つけた記憶があるが、法衣店なら普通に売っているのはびっくりした。
そうして見つけたのが京都仏具法衣店で取り扱っているこちらの雨コート。フードは取り外し可能で、丈は裾まで完全にカバーできるタイプ。あまり和装コートっぽいデザインではないが、着物を雨から守るという目的は十分に果たす。
他の法衣店でも、カタログに雨コートの記載があるお店は多い。写真や寸法が記載されていないのでどのようなものかは分からないが、探してみれば他にもいろいろと見つかるのかもしれない。
雨具にかぎらず、男性の着物は、小物などがなくて困ることが多いし、困ったときにネットで検索しても答えが見つからない場合が多い。行きつけの呉服屋や古着屋があれば相談に乗っては貰えるが、お金が掛かったり、それでも目当てのものが見つからなかったりすることも多い。そんなときに近くに着物友達とか、和裁士や裁縫ができる人がいれば助かるのだろうけど、わたしはそもそも友達が少ないのでこまった話だ。
そういえば鞄選びにも苦労した覚えがある。男性用の和装鞄は、信玄袋など小型の鞄がほとんどで、そうでなければ頭陀袋になる。頭陀袋も悪くはないが、もう少し上品な手提げ鞄がほしかった。近所の呉服屋さんには「そもそも荷物が多いってのが粋じゃないんだよ」と言われたのだが、そうはいってもA4が入るくらいの鞄はどうしても必要だ。結局、女性用として売られている柿渋染めの帆布の鞄を通販で見つけて購入したが、お茶の先輩方にも「よく見つけたね」とか「どこで売ってるの」などと訊かれることも多いほど、見つけるのが難しい。(いま検索してみたが、同じものが出てこなかった。これに似たものです)
ファッションとして最近はいろいろな着物(といって良いのか分からないものも含めて)が出回っていて、それは和装の市場が広がって、喜ぶべきことなのだろうけど、それはどうやら実用品として着物を着る人にとっての選択肢まで広げてくれる訳ではないらしい。それよりも、もっと実用的な着物や和装小物が増えれば着物がもっと身近になりそうなんだけど、着物を着ざるを得ない人々、つまりお稽古事や芸事に着物を着る場合はどうしても昔ながらの着方を守らないといけない部分もあって、あんまり楽したら先生に怒られるとか、ほかの教室の人に陰口を言われるとか、そういう世界だから、なかなか広がりそうもないのも事実だ。クリーニング代を惜しまずに正絹の着物を着るのが美徳、みたいなところも、あるところにはる。これだっておかしな話だ。だって雨の日に雪駄は厳禁ってことはみんな知っていて、雪駄を履かなくても許されるのに、なんで着物は化繊じゃ駄目なんだろう。
化繊の着物を買っても、「雨でも着られて便利ですね」っていうのが嫌味じゃなくなる日が、早く来てほしい。
女性であれば、雨用の履物と雨コートは呉服店でも通販でも簡単に手に入る。(なぜか知らないが、和装業界では雨合羽とかレインコートではなく、「雨コート」と言うらしい。)楽天市場で「着物 雨コート」と検索すれば、デザインも生地も様々なものが、選ぶのに困るほど出てくるのだが、そこに「メンズ」とか「男」と入れるとヒット数は1/200程度になってしまう。
男性用の雨コートとして一般的に売られているのが、これとかこれのような、普通のコートを防水生地にしたようなタイプのものである。しかしこれらは丈が膝までしかなくて、泥はねから裾を守ることはできないし、風がある日は傘をさしても裾の方が濡れてしまう危険がある。洋服であればズボンが濡れたところで洗えば済むが、絹の着物を濡らしてはいけないし、だいいち濡れた着物でお茶室に上がるなんてことをしたら失礼もいいところだ。尻っ端折りして歩けばいいのかもしれないが、袴を着ける場合はそれもできず、裾が広がってしまうので濡れる危険はさらに大きくなる。
着物を着る男の人って、雨の日はどうしているんだろうか。
まずは日頃お世話になっている古着(リサイクル着物)屋さんのご主人(男性)に訊いてみたところ、単純明快な答えが。
「雨の日は着物を着ません」
趣味で(普段着として)着物を着る方は、それで十分だろう。だけどわたしたちには、着物を着なければいけない時だってあるのだ。ということで、お次は近所の呉服屋さんへ。大手の呉服チェーンや百貨店の呉服コーナーで、「男性用の雨コートありますか?」と訊いてみたが、軒並み「取り扱っていません」とのこと。呉服チェーンのある店ではこの機会に洗える(化繊の)着物なら濡れても安心ですよ? と営業をかけてきたので、思わず「いやいや、そういう話じゃなくて、濡れた着物で茶室に上がれないでしょうが!」と怒ってしまった。商魂逞しくて恐れ入るが、語気を荒げてごめんなさいね。
続いて地元の小さな呉服屋さんのご主人に訊いてみると、「誂えるしかないんだよねぇ」との返事が。おじさんはわたしがお金がないことをよくご存知で、いままでもお金にならない面倒な仕事を何回か引き受けさせてしまったので、もう懲りたのだろう。見積もりまでは出してくれなかった。
そういえば男のきもの大全の早坂さんも、こんなことを書いている
「丈は裾までたっぷりあって、泥はねを防げるものでなければ意味がありません。私には丈も裄も短くて、これも既製品では無理なようでした(もっと、大きいのも作って~)。」
このご時世にわざわざ着物を着る人なんて、経済的にも余裕のある人ばかりだし、みなさんお誂えになるのでしょう。二回の海外旅行を諦め、血を吐く思いでお召の着物と羽織袴を誂えたわたしのような小市民には、残念ながら手が届かない。なお、わたしが着物を作ってもらった銀座の呉服店(ここが一番安くて、質も申し分なく、相談にも丁寧に乗ってくれたし、細身のわたしにもぴったりフィットするものを作ってくれた)にも訊いてみたが、既製品も扱っているが丈が短いので、長いものがほしければ誂えるしかないですねとのこと。見積もってもらったが4~5万円程度になるという。なんとかして、安く手に入らないものか。次に、たまにお世話になっている洋裁屋さんにイメージをお伝えして見積もって貰うと、生地代別で、3万円くらい、との返答が。あるいは既製品の雨コートに、生地を足して長くすることもできますよ、もちろん違う生地を縫い付けるので見た目は少し変わってしまいますが、とのこと。これくらいだったら、少し余裕ができたらお願いできるかなぁ。
おそらく、一番手っ取り早いのは女性用の雨コートをそのまま使う、というやり方だ。二部式ではない紐で留めるタイプで、黒か紺であればデザインはそれほど気にならない。サイズは、大きいものであれば身丈142cm、裄丈70cmくらいあるので小柄な男性であれば裾まですっぽりとカバーできるのではないかと思う(最近の着物は裄が長い傾向にあるので、足りないかもしれないが)。わたしの着物は身丈が151cmなので、これではちょっと足りない。
あるいは、雨スカートというものもあるらしい。袴の上から履くのであればこれでも違和感はないかもしれない。傘で上半身を守り、雨スカートで下半身を守るというのは、ひとつの解決策としてありうる。そうだ、傘だって蝙蝠傘じゃ風情がない。番傘とか蛇の目傘が必要になるんだなぁ。これもまた高い。
そんなことを考えているとふと頭に浮かんだのが、「お坊さんってどうしてるんだろう?」という疑問だ。法衣は普通の着物とは少し違うが、袖も裾も着物と同じような形なので参考になるかもしれない。菩提寺のご住職にこんなくだらないことを訊くのも気が引けるので、知り合いのお坊さんにLINEで訊いてみると、
「法衣屋さんで普通に売ってるよ! 一般の人でも売ってくれると思う」
との答えが。おおっ、光が見えた。
さすがに有髪のわたしが僧侶のためのお店に行くのは気が引けるので(浄土真宗の仏具屋なら大丈夫か?)、法衣の通販サイトをいろいろと見てみたが、それにしても和装小物が安い。足袋や下着も種類がたくさんあって、機能的な下着を取り揃えているお店が多い。半襦袢も呉服屋で買うより格段に安い。夏用の化繊の入っていない半襦袢なんて、かなり苦労して見つけた記憶があるが、法衣店なら普通に売っているのはびっくりした。
そうして見つけたのが京都仏具法衣店で取り扱っているこちらの雨コート。フードは取り外し可能で、丈は裾まで完全にカバーできるタイプ。あまり和装コートっぽいデザインではないが、着物を雨から守るという目的は十分に果たす。
他の法衣店でも、カタログに雨コートの記載があるお店は多い。写真や寸法が記載されていないのでどのようなものかは分からないが、探してみれば他にもいろいろと見つかるのかもしれない。
雨具にかぎらず、男性の着物は、小物などがなくて困ることが多いし、困ったときにネットで検索しても答えが見つからない場合が多い。行きつけの呉服屋や古着屋があれば相談に乗っては貰えるが、お金が掛かったり、それでも目当てのものが見つからなかったりすることも多い。そんなときに近くに着物友達とか、和裁士や裁縫ができる人がいれば助かるのだろうけど、わたしはそもそも友達が少ないのでこまった話だ。
そういえば鞄選びにも苦労した覚えがある。男性用の和装鞄は、信玄袋など小型の鞄がほとんどで、そうでなければ頭陀袋になる。頭陀袋も悪くはないが、もう少し上品な手提げ鞄がほしかった。近所の呉服屋さんには「そもそも荷物が多いってのが粋じゃないんだよ」と言われたのだが、そうはいってもA4が入るくらいの鞄はどうしても必要だ。結局、女性用として売られている柿渋染めの帆布の鞄を通販で見つけて購入したが、お茶の先輩方にも「よく見つけたね」とか「どこで売ってるの」などと訊かれることも多いほど、見つけるのが難しい。(いま検索してみたが、同じものが出てこなかった。これに似たものです)
ファッションとして最近はいろいろな着物(といって良いのか分からないものも含めて)が出回っていて、それは和装の市場が広がって、喜ぶべきことなのだろうけど、それはどうやら実用品として着物を着る人にとっての選択肢まで広げてくれる訳ではないらしい。それよりも、もっと実用的な着物や和装小物が増えれば着物がもっと身近になりそうなんだけど、着物を着ざるを得ない人々、つまりお稽古事や芸事に着物を着る場合はどうしても昔ながらの着方を守らないといけない部分もあって、あんまり楽したら先生に怒られるとか、ほかの教室の人に陰口を言われるとか、そういう世界だから、なかなか広がりそうもないのも事実だ。クリーニング代を惜しまずに正絹の着物を着るのが美徳、みたいなところも、あるところにはる。これだっておかしな話だ。だって雨の日に雪駄は厳禁ってことはみんな知っていて、雪駄を履かなくても許されるのに、なんで着物は化繊じゃ駄目なんだろう。
化繊の着物を買っても、「雨でも着られて便利ですね」っていうのが嫌味じゃなくなる日が、早く来てほしい。
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