これから卒論を書くICUの学生のみなさんへ

 わたしが四年生になったときに知っておきたかったことや、後輩に伝えたいことなどを、まとめておきます。あくまでわたしの個人的な見解です。わたしは就活はしなかったのでその辺のことは書けません。
 たんなる老婆心で書いてますので、お節介かもしれません。

 ちなみにわたしは人類学と歴史学のダブルメジャーでして、山形県村山地方の「ムカサリ絵馬」をテーマに卒論を執筆しました。これは独身で亡くなった人の供養として、あの世で結婚して幸せになってほしいという願いを込めて、個人と架空の結婚相手の結婚式を描いて納めるものです。二度のフィールドワークを含めた調査を行い、「「ムカサリ絵馬」と死者供養の人類学的研究:頼る死者と贈る生者の民族誌」という題名でまとめました。興味があれば図書館で閲覧してみてください。

(注:毎年、年末年始になるとこの記事へのアクセスが伸びるようです。卒論提出を前にしてこのブログにたどり着く方が多いのだと思いますが、この記事はタイトルにあるように「これから卒論を書く」人に向けたメッセージですので、間もなく提出される方が探しているような情報は書いていませんし、今後も書くつもりはありません。ICU図書館の卒論お役立ち情報や、ICU ehandbookの卒業論文ガイドラインをどうぞ。困ったことは図書館のレファレンスサービスセンターに聞いて下さい。もしこの期に及んで「これから書く」という方がいらっしゃいましたら、こんなの読んでないでとにかくひたすら書くことを強く推奨します。



①卒論は楽しい。


 すくなくとも私は、卒論に取り組んでいる1年間は本当に楽しくて充実した日々でした。本当です。自分の興味のままに調べたり考えたりして、先行研究にも書かれていない=誰も知らないことを発見していく過程はつねにワクワクしていましたし、現地調査で色々なひとと出会ったのはかけがえのない経験でした。
 自分の関心のあることについて、自由に調べて、考えて、論じることのできる機会なんて、ほとんどのひとは学生のうちしかないでしょう。そのための環境も整っているし、それを指導してくれる先生もいるというのは本当に恵まれたことだと思うので、思いっきりその機会を活かしてみてはいかがですか。
 「学生のうちしかできない!」とかいうしょーもない広告に煽られて、就活のためのアリバイ作りさせられるよりも、そっちのが絶対いいと思いますけど。
 卒論に苦しんでいる先輩もいますが、それを見て卒論は面倒なものだと最初から決めてかからないように。一年間を損します。



②がんばれば賞が狙える。賞金も出る。

 寄付金をもとにFriends of ICU 学術奨励賞 というものが設定されていて、各分野のすぐれた卒論・修論が表彰される制度があるのです。賞金は5万円。卒業式後に授与式があります。自信作が書けたら指導教員に推薦してもらいましょう。
 それから、Japan ICU Foundation(JICUF)が卒論発表会を実施しており、優秀卒論賞の授与とポスター発表をやっています。こっちは賞金が貰えるのか分かりませんが、研究者を目指す方は受賞歴として各種申請書に書けますので、指導教員に相談してみましょう。
 わたしも2016年度の長清子アジア研究学術奨励賞をいただきました。賞金は有意義に使わせていただきます、と言いたいけど生活費にしかならないでしょうね。。。


③調査費用は学生サポート資金に助成してもらう

 これは卒業するまで知らなかったのですが、日本国際基督教大学財団(JICUF)が学生サポート資金というのを用意しています。学生の研究または社会貢献・奉仕活動のための旅費や、学生主催のイベント・活動をサポートする資金を提供してくれます。
 つまり卒論の調査費用をここから調達することができるのです(もちろん、審査に通ればの話です)。早めに計画して申請しましょう。
 

④仲間は多い方がいい

 「卒論はチームワーク」——K先生
 ささいな疑問から大きな問題まで、聞いたり相談できる友達をなるべく多く作ること。私のゼミはLINEグループがあって、書き方や出典注の入れ方とかwordの使い方とかはそこで聞けば誰かが答えてくれました。ICUは(公式には・定期的な)ゼミがないのが問題なんですが、議論を展開していくためには対話が必要なこともあります。なるべく似たような関心を持っている人と情報を共有していると行き詰まったときに解決の糸口を与えてくれたりもします。締切間際になって焦っている時に「助けて!」と言える相手、日頃から刺激を受ける相手を見つけておくといいです。
 私のいたM木ゼミの仲間は本当にありがたかったと思います。今でも感謝しています。M木ゼミは「ICUの下半身」とか言われてますけど。。。


⑤図書館を使い倒す

 図書館ホームページの「サービス一覧」のところは少なくとも見ておきましょう。
 欲しい本があったら制限なくリクエストできるし、リクエストしないと図書館予算が減らされてしまいます。TACや提携校にない図書なら、たいてい買って貰えます。希望の理由は「卒業論文のため」と書けば十分です。
 データベースやCiNiiで論文を探してもフルテキストが見つからなければ論文コピーの取り寄せ(300円)もできるし、ICU図書館や提携校にない本は他大学の図書館から借りる(だいたい600円くらい)こともできます。お金はかかるけど、交通費を掛けて国会図書館に行くよりはずっと安いですよ。
 資料の種類によっては公共図書館も使えます。歴史や民俗にかんするものは公立図書館が郷土資料室を持っていたり、地元の研究者の寄付した蔵書が文庫になっていたりします。
 国会図書館だけじゃなくて、東洋文庫とか歴博の図書館もお世話になりました。
 あと、博物館の非公開の資料も交渉したら見せてくれる場合もありました。


⑥時間には余裕を

 卒論は提出期限を過ぎると一切受け入れて貰えないのはご存知かと思います。私のゼミでは提出間際に警察に職務質問されて時間を無駄にする人もいれば、失恋して一ヶ月動けなくなる人もいました。。人生は本当になにがあるのか分からないので、、、
 時間に余裕があれば、迷ったときに問いを立て直すこともできます。そうした方が、結果としていい論文が書けたり、納得のいく答えがみつかったりするものです。

 そして、まだ時間に余裕のあるうちに好きな本や読みたい本は読んでおいたほうがいいです。院試や卒論で好きな本が読めないのが一番辛かったです。日頃から本を読んでおくと卒論に役立つかもしれませんよ。わたしが「ムカサリ絵馬」を知ったのも本からの知識ですから。


⑦とにかく書く!!

 考えてばかりいないで、とにかく書きましょう。考えているつもりでも実は考えがまとまっていなかったり、ちょっとしか考えてないことでも書き出すうちに考えが深まったりするものです。
 自分が何を考えているのは、書くまでわからないものなのです。。。

 私は文献を読みながらノートを(PCに)取って、疑問や批判や重要点の要約とページ番号を書き留めていました。ページ番号を書いておけば本文に引用するときに探さなくていいから楽です。
 結果としては論文に使わなくても、書いたことは無駄じゃないので、書くことは面倒くさがらないこと。


⑧アドバイザー選びは大切

 一年間一緒に論文を書く伴走相手になりますから、相性とかも考えて選びましょうね。学生を放置してる先生も結構います。結局、自分の関心のあること、自分の調べたいことに取り組むのが持久力につながります。わたしもあの指導教員でなければ、ここまで自分のやりたいことを見つけてそれに向かってまっすぐ進むことはできなかっただろうな、と思います。先生には感謝の思いが尽きません。


⑨大学院進学を考えている方へ

 希望進路決定は早い内にしましょう。わたしは専攻をどうするかでかなり迷ったので決めるのが遅くて、6月中旬に希望が決まったんですが、その後すぐフィールドワークに行って帰ってきたのが8月中旬。大学院の入試が9月中旬で、一ヶ月で詰め込むように勉強しました。精神的にも肉体的にも辛かったです。思いっきり体調を崩しました。帯状疱疹が出たり、盲腸になりかけたりしました。もっと余裕をもって決めることができたら。。。。
 まぁ、受かったから良かったんですが。

 で、決めるにはどうしたらいいかというと、相談することです。大学のウェブサイトには教員のメールアドレスが書いてありますから、「こういうテーマに関心があるのだが、そちらの研究室では研究ができるか」という旨のメールを出してみましょう(もちろんその教員の研究実績を見た上で。論文や著作も読みましょう。ゼミの情報があれば先輩の研究内容も見る。)。可能ならゼミ見学をさせて貰いましょう。大学選びよりも指導教員選びが大切です。入ってみて自分のやりたいことができなかったら悲惨だし、、、できない研究はだいたい2次試験(面接・口述)で落とされますので。それに、面識のある相手なら面接試験も楽になりますから。
 教員に直接メールするほどの関心にまでいかないのであれば、そこに進学した先輩に聞いてみるのもいいと思います。同じ大学なら知り合いに行きたい研究室の先輩がいるかもしれないので、紹介してもらうといいです。

 また、大学院(たとえば東京医科歯科大のMMAとか)や教員によっては、出願前に教員に相談することを求められる場合もあります。早めに動かないといけなくなります。

 あと、私は1次試験の筆記で落ちたと思っていたんで、結果が出るまでものすごく落ち込んでたんですが。落ちてませんでした。勝手に落ちたと思い込んで落ち込まないように。落ちたと思った人はだいたい受かってるらしいです。


⑪他流試合に行く

 自分のアドバイザーではなくても、頼めばゼミに参加させてくれるかもしれません。私は自分のゼミ以外にも歴史学のゼミに2つ出席していました。分野は違っても似たようなテーマを扱っている人がいて、学ぶことが多かったです。なにより自分のゼミよりも優秀な方がたくさんいたので・・・。自分のゼミでは解決できない問題もほかのところなら解決してくれるかもしれません。もちろん他大学にいい先生がいる場合とか、大学院進学を決めている場合、そのゼミに参加するのもいいと思います。
 

⑫原稿管理について

よくあるアドバイスなんですが、一番大事なことは…



 データは飛びます。消えます。PCも壊れます。本当です。




 各ゼミに一人は必ずトラブルに見舞われる人がいます。恥ずかしくて言えない人もいるので、実際にはもっといるでしょう。(わたしも恥を忍んで言えば、卒論も修論もあわせて5000字くらいのデータは消えました。ははは…)
 こまめに保存しましょう。バックアップは取りましょう。データはPC、USB、クラウド上の少なくとも3箇所に保存しましょう。最初はコツコツ保存しても、だんだんたるんできます。自動で保存もされますが、少なくとも休憩する前とか一定の作業を終えた後にはバックアップを。PCに珈琲をこぼす人もいますからね、注意しましょう。それから製本当日にはなぜかPCが不調になります。なぜかプリントできません。表紙と目次を作るのも上手く行きません。本当です。だから少なくとも2日くらいは余裕を持って製本に出して、提出しましょう。

⑬ほしい本が手に入らないときは

 研究上必要な本が、絶版・品切重版未定や図書館の本が貸し出し中だったりして手に入らないということが、あると思います。だいたいの本は図書館を経由して借りる、あるいはコピーすることができるので諦めないでください。
 上にも書いた通り、ICU図書館で所蔵がない、あるいは貸出中であっても、多摩アカデミックコンソーシアム(国立音楽大学・津田塾大学・東京外国語大学・東京経済大学・武蔵野美術大学)から取り寄せることができます。その他の提携図書館も利用できるので、詳しくは図書館ホームページを参照のこと。一般的な研究書であれば、だいたいこの方法で手に入ります。
 民俗関係で地方の図書館にしかない場合もあります。この場合は現物貸借といって、ICU図書館を通じて地方の大学や研究施設の図書館から本を借りることができます。詳しくはこちら。送料片道分は自己負担、図書館館内での閲覧のみですが、コピーを取ることができます。
 日本で出版された全ての著作物は、国立国会図書館に所蔵されています(ISBN:流通コードのこと、が付いていない私家版などは例外)。面倒はありますが、どうしても手に入らなければこちらを。近隣の図書館を通じて、国会図書館から借りることもできますので、お近くの公立図書館にお問い合わせください。
 これらの方法で手に入れた本は、丁寧に扱って下さい。たまに本に付箋をはる人がいるんだけど、付箋の糊は本にとって結構なダメージになるんです。図書館は百年単位で本を保存します。歴史家が歴史資料に付箋を貼ることは絶対にありません(自分で買った本には貼るけど)。細長い紙を挟むだけです。中性紙だとなお良い。それと同じくらい丁寧に扱って貰いたいものなのです。。

 購入したい場合、アマゾンのマーケットプレイスは品切本が異常に高いことがあるので、日本の古本屋スーパー源氏じんぼうなどと比較してからにしましょう。ヤフオクやメルカリ、ジモティーなどで手に入る場合もあります。各種のオンライン書店(新刊・古本)を横断検索できるサービスもあります。稀に品切でもネット書店に在庫が残っていたり、紀伊國屋やジュンク堂などの地方書店に残っていたりするので根気よく調べていくと見つかることがあります。わたしも品切本を買うために群馬の書店まで車で買いに行ったことが。。。。ネットに在庫を載せていない古本屋も未だにかなりありますので、それは自分の足で行ってみたり電話で尋ねてみるしかないです。古本屋はそれぞれに得意分野があるので、足繁く神保町や早稲田や本郷などの古本屋街に通っているとだいたいどこに掘り出し物がありそうか分かってくるものです。顔なじみの古本屋があれば(ある人はそもそもこれを読まないだろうが)聞いてみると持っていそうな本屋を紹介してくれたり、仕入れてくれたり、なんてこともあったりなかったり。ちなみに古本屋の主人と顔なじみになるためには、とにかく良い本を買いまくること。堅物な親父が多いので、目立とうとせずに地道に良い本を買い続けることです。時間がかかるのです。
 また、版元(出版社)に問い合わせてみると在庫があったり、ごく稀にB本(汚損やデッドストック)を売ってくれる場合があったりなかったり。なかったり、の割合が九割九分くらいですが。。こういうB本は、年に一度神保町ブックフェスティバルなどで安価で販売されることがあります。時間は掛かるけど、復刊ドットコム書物復権などで復刊リクエストを送るのも手かな。岩波書店は絶版にしない、というスタンスなので比較的再版には積極的(だった。かつては。)。なお絶版と品切重版未定の違いが分からない方は、、、、ggr。あとは著者に問い合わせてみると、なにか良いことがあったりなかったり(これもなかったり、が圧倒的に多いけど、PDFでくれたりはしなくもない)。基本的には研究者は熱心な学生には優しいので、どんなテーマで卒論にとり組んでいて、その本がなぜ必要なのかを簡潔に、できるだけ熱意を滲ませて、失礼のないように(くれぐれも「見つからないからください!」みたいなことを書かないように)お尋ね申し上げてみてください。

⑭参考にすべき本

 論文の書き方に関しては様々な本が出ています。どれでもよいと思いますが、特にわたしが学部時代に参考にしたのは河野哲也『レポート・論文の書き方入門』(慶応義塾大学出版会)です。それとこの手の本は退屈で、通読するのが難しいので、その意味で最後まで読める本となると戸田山和久『論文の教室』(NHKブックス)でしょうか。慶応義塾大学出版会からは他にもアカデミックライティングやリーディング関連の書籍が多く刊行されていますので参考にするといいでしょう。それから組み方や約物(記号)の使い方、文章のルールについて確認したい場合は日本エディタースクール編『校正必携』を参考にしてください。
 学部の何年間で論文や学術書の読み方はある程度叩き上げのかたちで身に付けた人も多いと思いますが、心配な方やもう一度基本から浚っておきたい人は鈴木哲也『学術書を読む』(京都大学学術出版会)や、M.J.アドラー, C.V.ドーレン『本を読む本』(講談社学術文庫)などを参考をにしておくと良いと思います。
 それから歴史学やその周辺で卒論を執筆する場合は、村上紀夫『歴史学で卒業論文を書くために』(創元社)は必読です。絶対に(できれば3年生のうちに)読みましょう。また、図書館やデータベースの使い方に関しては浜田久美子『日本史を学ぶための図書館活用術』(吉川弘文館)も非常に役に立ちます。主に歴史系のデータベース活用法が主ですが、他の分野でも非常に役に立つので、資料をもっと広範に探したい場合はぜひ読んでみてください。
 また外山滋比古『思考の整理学』(ちくま文庫)の考え方は折に触れて必要になるでしょう。卒論にやる気が出なかったり、研究する意味が分からなくなった場合は戸田山和久『教養の書』(筑摩書店)を読むとよいでしょう。これを読んで自分が馬鹿なんじゃないかと思ったら、戸田山和久『思考の教室』(NHK出版)植原亮『思考力改善ドリル 批判的思考から科学的思考へ』(勁草書房)がお役に立つでしょう。
 

【フィールドワークをする方へ】

①(人類学では)単純に自分の好きなこと、やっていること、自分に関係があることはテーマにしずらい。

 たとえば在日コリアンの方が在日コリアンのコミュニティを研究するのはとても難しいでしょう。それまでその人が見てきた世界があって、自分では気付いていない「当たり前」の世界があって、それを客観的に言語化するのはかなり難しい。
 私は入学前に鍼灸師の資格を取ってるんですが、それを研究テーマにするには私は鍼灸のことを知りすぎていました。かなりバイアスがかかることは分かりきっていたので、卒論のテーマにはしませんでした。


②フィールドワークには拠点が必要

 どこかに滞在してフィールドワークをするのであれば、その地元に根を張れる場所が必要です。私は山形ではゲストハウスに滞在していたので、そこのスタッフの方の知り合いを紹介してもらったり、地域の方と交流ができて調査はかなりしやすかったです。
 青森でもフィールドワークをしたんですが、ここではウィークリーマンションに泊まっていて、調査地まで車で行ってインタビューをして宿に帰るだけだったので、結局地元に溶け込めないまま調査が終わってしまいました。結果として、青森での事例は卒論には一切書かなかった。忙しい時間を割いて協力して下さった方を思えば、断腸の思いです。
 拠点だけじゃなくて、地方に行くなら車は必要だし、お金も、心理的余裕も必要です。
 私は二回(1ヶ月半+10日)の調査で40~50万円くらい使ったかな(飲食費……飲み代も含めば)。だけどそれを費やす価値はあったと思います。


③関係ないかなと思っても、(時間があれば)調べてみる

 関係ないかなと思っていても、じつは関係があったりします。わたしは卒論で、山伏のことはなんとなく関係ないかなと思って放置してたんですが、指導教員に「時間もあるし調べてみたら?」と言われ、調べてみたら本当に思わぬ発見がありました。この学問的貢献が賞の推薦理由のひとつになったくらいです。
 調べてみて、上手くいけば1節、いかなくても1パラグラフ、あるいは脚注くらいは書けるかもしれません。結局は使わなかったとして、調べたことは無駄にはなりませんよ。


④録音はしっかり

 一度、録音ボタンを2回押してしまって停止状態になってたことがあったんです。2時間ちかいインタビュー、録音できてなかったんです。。。ちゃんと確認しましょう。
 同意書とか録音を頼むと身構えられることも多いです。そんな大したことはなさないよって。でもこっちには、大したことない子どもの頃の思い出話が重要だったりするんです。しっかり頼みましょう。
 場合によっては、「いやぁ、最近はデータの捏造とかがうるさくて、取るように言われてるんですよねぇ、お願いします」みたいな頼み方も使えます。 


⑤知っていそうな人にはとにかく連絡してみる

 地域の人、お坊さん、関係者、先生、先輩・・・だれでもいいです。とにかく連絡できるなら連絡してみましょう。
 私は人見知りでして、知らない人に電話を掛けるのは本当に苦手で、怖くて震える手で電話を掛けたりしてましたけど。そうやって電話をかけたすべての人と、話してよかったと思っています。冷たくあしらわれたことは一回もないし、論文に役に立っただけではなくて、ひとの暖かさにふれたり、訪問したらお菓子を出してくれたり。良い経験でした。
 もちろん礼儀は忘れずに。
 ICUの方は大学名を言うと(特に知名度の低い地方では)警戒されることもあると思います。でもこちらが誠意と熱意を見せればちゃんと分かって貰えます。大丈夫です。


さいごに

「人は生まれながらにして知ることを欲する」と、アリストテレスは言いました。「これって何故なんだろう」「どういうことなんだろう」という疑問を持ち、それを知ることに快楽を覚えるというのは人間の持つ本能とでも言うべきでしょうか。

その素朴な疑問、欲求を、心ゆくまで探究できる機会というのは、実はそう多くはありません。多くの方は大学を卒業したら就職するのでしょう。そうしたら専門書の揃った大学図書館にも、相談できる教員や図書館員にも気軽にアクセスすることはできないのです。

「社会人」(という言葉は嫌いですが)として、忙しい日々の中で好奇心も向上心もすり減って漬物になったキュウリのような心になる方も、もしかしたらいるかもしれません。興味のあることを好きなだけ調べて言葉にできるという機会は、今が最後かもしれないのです。

わたしは大学の頃、図書館の開館から閉館まで居座ることもよくあったのですが、そんな私の姿を見て、まわりの「大人」から発せられる、
「俺も学生のころ、もっと勉強しとけばよかったな〜」
とかいう言葉を散々耳にしました。ふざけるな、と思いました。そういう後悔の言葉を口にする人ほど、今その機会があっても勉強しないくせに。まぁ、多くの大学生にとって、それが普通であることもまた、知っているのですが。

「やる気が無いなら辞めなさい。勉強は贅沢なんだから。自分がいかに恵まれているかも分からない人間が勉強したって意味がない」

とは、予備校講師の林修先生の言葉です。いま、高い学費を払って(もらって)好きなように勉強ができるという僥倖に気付かないなら、勉強する意味などないのです。

自分が行おうとしているプロジェクト(卒論)に、ゼミの仲間や指導教員から忌憚なく意見や批判や指導が頂ける、というのは、実はとても有難い(あることがむずかしい&感謝すべき)ことです。「社会人」になって、それなりの立場とか付き合いとか、俗世のもろもろがひっついてくると、損得を考えず、自由に議論をぶつけ合える場所は、ほとんどありません。

卒論で納得のゆく結論は出ないでしょう。多くの場合、正しいものが書ける訳ではありません。しかし、「間違っている」ことが悪いとか、恥ずかしいとか、そういうことは一切ありません。むしろそういう正解のない問いだからこそ、自由に、論文を書き、議論することができるのです。時間がなかったとか、こうすればよかったとか反省をすることもあるでしょう。しかし、それが堂々と言えることがとても貴重なことなのです。

だから好奇心を武器にして、突き進んでください。それを疑ったり、ブレーキを掛ける必要など、微塵もありません。本当です。

社会人になると、むしろそういう好奇心に歯止めを掛けるような障害、それは組織のあり方だったり、同調圧力だったり理不尽なルールだったりするのですが、それらが山のように出てきてしまいます。そのうち無力になっていき、何かに疑問を抱くということを、次第にやめてしまうという人も、結構な割合でいるのです。そうやって干からびていった大人たちを、何人も見てきました。それが社会の理不尽とか不平等を見逃すことと地続きであることも、多いのですが。

卒論がすぐに役に立つ必要はありません。「すぐに役に立つ本は、すぐに役に立たなくなる」と小泉信三が戦後間もなく『読書論』で書いていますが、就活とかビジネスに役に立ちそうなものを書く必要などありません。自分が知りたいと思うこと、自分にとって必要だと思うことを、存分に探求してください。いずれ役に立つかもしれません。それは分かりません。アインシュタインが相対性理論を発見したとき、誰もがそんな発見は役に立たないと思っていました。それでも今、みなさんがスマホやカーナビで使っているGPSは、一般相対性理論がなければ何十メートルも誤差が出てしまうのです。そんなものです。役に立つかどうかは、考えなくて良いです。

しかし学生時代に好奇心をもって取り組み、立派とは言えないけど胸を張れる論文を書いた、という原体験は、きっと今後の人生で、あなたが答えの出ない問題に突き当たったときに、役に立つはずなのです。世の中でこれからあなたが向き合わなければならない問題は、すでに誰かが答えを出してくれた問題ばかりではないのです。就職してしばらくは先輩の教えを受けて上手く生きていけるかもしれませんが、いずれ壁にぶち当たったとき、自分の頭で答えを出さなければならないときが来ます。そのとき、学生時代に思いっきり好きなだけ考えたことは、人生の指針になるはずなのです。

実用的な卒論アドバイスは、きっと他に沢山あるから、あえて観念的な話をしてしまいました。説教くさいなとか、偉そうだなって思われるかと思いますが、そういう方は聞き(読み)流してください。最後に、太宰治が東大生に残した言葉を、みなさんに。

「世の中に於ける位置は、諸君が學校を卒業すれば、いやでもそれは與へられる。いまは、世間の人の眞似をするな。美しいものの存在を信じ、それを見つめて街を歩け。最上級の美しいものを想像しろ。それは在るのだ。學生の期間にだけ、それは在るのだ。」(太宰治「諸君の位置」



卒論は四年間(+α)の学びの集大成です。ぜひ納得のゆくまで考え抜いて、いい論文を書いてください。

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